「曲目解説」 (三輪 壮一)
1.ヨハン・セバスチャン・バッハ
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パルティータ第1番 変ロ長調 BWV 825

パルティータとは元来「分けられたもの」という意味のイタリア語で、ドイツ伝わって「組曲」(Suite)と同じ意味で使われる様になった。古典的な組曲は4つの舞曲(アルマンド、クーラント、サラバンド及びジーグ)で構成されているが、バッハのパルティータ(全6曲)は、カプリッチョ、アリア、ブルレス、スケルツォといった舞曲以外の曲を組み入れると共に、イタリア的な明朗な表現を目指したものとなっている。

作曲は1726年から1731年にかけてライプチヒで行われ、6曲まとめて「クラヴィーア練習曲集第1巻」として出版された。

第1番は、その典雅で明るい曲想により、6曲の中で最も親しまれているもの。
    
プレリュード:優雅で落ち着いた雰囲気の前奏曲。 
アルマンド:軽快で流麗な曲。右手が絶えず早いパッセージを弾き続ける。
クーラント:リズミカルな曲。左手の刻むような旋律が印象的だ。
サラバンド:ゆったりとした荘重な雰囲気の曲。
2つのメヌエット:軽快な第1メヌエット、優雅な第2メヌエットと2つの対照的な曲が並ぶ。
ジーグ:ユーモアに富んだ軽快な曲。左右の手を交差させる弾き方が面白い。

2.フレデリック・ショパン

@夜想曲第3番 ロ長調 作品9−3

アイルランド出身のピアニスト、ジョン・フィールドが創始した「夜想曲」という形式は、一般に左手の和声的な伴奏に乗って右手が甘くせつない旋律を奏でる形を取っている。ショパンは全部で21の夜想曲を作曲したが、作品9(全3曲)はそれ等の中で初期に作曲されたもので(1830年‐1831年頃の作)、甘美な旋律を主体にした曲調にフィールドの影響が見られる。

番(作品9-3)は、スケルツァンドで始まる優雅で憂いを湛えた主題と自由な変奏、ロ短調で始まる激しい中間部、短く縮められた再現部と繊細で美しいコーダから成り立つ。特に、憂いを帯びたロマンチックな旋律がたゆたう様に弾かれる提示部が殊のほか美しい。

A幻想曲(ファンタジー)へ短調 作品49

「幻想曲」とは、形式にとらわれずに心の赴くままに作曲される曲のこと。作品 49はショパン唯一の幻想曲で、1841年にノアーンのジョルジュ・サンドの家で作られた。この曲の終始高揚した緊張感は実に見事で、ショパンの最高傑作の1つに挙げられるのも納得がいく。成る程この時期はショパンの創作力の絶頂期に当っており、ポロネーズ嬰へ短調やバラード第3番変イ長調等の傑作が生み出されている。

幻想曲へ短調は、自由なソナタ‐アレグロ形式で、重い足取りの行進曲風に始まる導入部、3連符が多用され力強い提示部、美しいコラール風のレント・ソステヌート、そして激しく情熱的なコーダ等から成り立つ。

一説によると、この曲はショパンとジョルジュ・サンドの喧嘩と仲直りの情景を描写したものとのこと。フランツ・リストがショパン自身から直接その様な解説を受けたという話。あなたはこの曲を聞いてどう感じますか?

  
3.チャイコフスキー  ドゥムカ作品59

ドゥムカは、スラヴ地方に伝わる民謡の一種で、哀調を帯びた緩やかな曲と熱狂  的で速い曲とが対比される構成となっている。ドヴォルザークの有名なピアノ三  重奏曲“ドゥムキー”(ドゥムカの複数形)はその代表的な例だ。

1886年に作曲されたチャイコフスキーのドゥムカも、同様の構成となっている。
特に、チャイコフスキーらしいメランコリーで美しい旋律の中に激しく華やかな技を散りばめた中間部が実に印象的で、一度耳にしたら忘れられない程だ。


4.ラフマニノフ  4つの前奏曲(作品233567

ラフマニノフは、作品32・作品23(全10曲)・作品32(全13曲)と全部で24曲の前奏曲を作曲した。これらはそれぞれ24の異なった調性で書かれている。この様に全て違った調性で一連のピアノ曲を作る試みは、バッハ以来何人かの作曲家が手掛けており、ラフマニノフ以外にもショパン、スクリャービン、ショスタコービッチ等の名前を挙げることが出来る。

作品23(全10曲)が作曲された1901年頃は、ピアノ協奏曲第2番が作曲された時期、即ち彼が極度のノイローゼから立ち直り、旺盛な創作力を開花させた時期に当たる。
    
作品233 二短調 テンポ・ディ・メヌエット:マズルカ風の曲。ちょっとおどけた様なリズミカルな旋律が楽しい。
作品235  ト短調  アラ・マルチャ:行進曲風の力強いリズムと、はかなくも美しい旋律との見事な対比。ラフマニノフの特徴が良く現れた傑作で、プレリュードの中で最も親しまれている曲である。
作品236 変ホ長調 アンダンテ:左手の16音符の上に、右手のたおやかで美しい旋律が重なる実に幻想的な曲。いつまでも続いて欲しいと願わずにはいられな   い美しい曲。
作品 237 ハ短調 アレグロ:荒々しく吹きすさぶ疾風の様なイメージを持った曲。

5.スクリャービン ソナタ第4番 作品30

作曲は1903年、スクリャービンがロシア象徴主義の思想に触れ、彼の作風が神秘的方向に変化する時期に当たる。2つの楽章から成るが続いて演奏される。スクリャービンは、このソナタを「遠くの星への飛翔を表した詩」と述べている。

1楽章 嬰へ長調 アンダンテ:神秘的な静けさが漂う如何にもスクリャービンらしい楽章である。作曲者は、「遠くの星の柔らかな光が雲間から垣間見られる。何という美しさ!」と解説している。

第2楽章 嬰へ長調 プレスティシモ・ヴィランテ:シンコペーションを多用した独特なリズムが印象的な楽章。作曲者は、「今こそあの星に向かって翼を広げて飛び立つのだ!」と解説している。