2016123日 テトラミュゼ曲目解説

テトラミュゼのコンサートも、おかげさまで5回目を迎えました。これまで、踊り、詩、風景、バッハをテーマにした曲を演奏してきましたが、今回のテーマは「祭典」。
華やかな祭典に相応しい曲として、今回はスペイン、フランス、アルゼンチンといったラテン系の作曲家の曲を集めてみました。ピアノも、独奏、連弾、2台4手、2台8手と様々な演奏形式で祭典を盛り上げる趣向です。
 どうぞ、色彩感溢れる、華やかで情熱的な(時にはしっとりとした)「ピアノの祭典」をお楽しみください。

1.「スペイン組曲」作品47より  イサーク・アルベニス (1860-1909)

Suite Espanola  op.47 Isaac Albeniz

アルベニスは、カタルーニャ出身の作曲家で、スペイン民族主義音楽の代表者として活躍しました。また4歳でリサイタルを開くほどの天才的なピアニストでもありました。

彼は8曲から成る「スペイン組曲」を構想しましたが、実際に作曲したのは4曲のみ、残る4曲はタイトルしか残しませんでした。アルベニスの没後、この曲集が 「スペイン組曲 第1集」として出版された際、実在しない4曲には彼の他の作品が使われました。例えば、第5曲アストゥリアス にあてられたのが「スペインの歌」作品232の第1曲「前奏曲」です。

 3曲 セヴィーリャ(セヴィリャナス)SEVILLA  (Sevillanas)
   セヴィーリャはスペイン西部の古都で、オペラ「カルメン」の舞台として有名で   す。カスタネットのリズムにのって、祭り(復活祭聖週間)の主題が情熱的に歌   われます。中間部では、哀愁ただよう宗教歌サエータが聴かれます。

 4曲 カディス(カンション)C?DIZ  (Canaion)
   カディスはジブラルタルの北西にある港町。この曲は、元々は「スペイン・セレ   ナ―タ」作品181という曲です。切なくも美しいセレナータが、のびやかに歌われ   ます。

5曲 アストゥリアス(伝説)ASTURIAS  (Leyenda)
   アストゥリアスは、スペイン北部にある山や森林、牧草地に恵まれた地方です。   この曲はギターの爪弾きを模した奏法が用いられ、中間部は両手のユニゾンによ   る幽玄な旋律となります。この曲はセゴビアによってギター用に編曲され、今日    ではギターの小品として演奏される機会が多いようです。

6曲 アラゴン(ファンタジア) ARAGON  (Fantasia)
   東北スペインのアラゴン地方で踊られるホタの舞曲が華やかに描かれます。ホタ   は、カスタネットの伴奏に乗って踊られる、速い3拍子による舞曲です。

  7曲 カスティーリャ(セギディーリャ)CASTILLA (Seguidillas)
   カスティーリャとは「お城の地方」という意味です。イスラム勢力との戦い    (レコンキスタ)の最前線となり、多くの城壁が作られました。非常に明るく軽や   かな曲です。


2.「前奏曲集」より クロード・ドビュッシー  (1862-1918)

Preludes Claude Debussy

フランス印象派の作曲家ドビュッシーは、音色と響きの精妙な変化によって曲を作りだすという、ピアノ曲の新しい可能性を開拓した人です。
 前奏曲(プレリュード)は、もともとは大規模な曲の前に演奏される曲の意味でしたが、後に「技巧を凝らした即興的で自由な作品」の意味へと変わって行きました。ドビュッシーの前奏曲は全24曲あり、各12曲からなる曲集『前奏曲集第1巻』 『前奏曲集第2巻』に収められています。バッハの平均律やショパンの前奏曲とは異なり、各調整に一曲ずつ割り当てた訳では有りません。

(1)   途絶えたセレナード  La serenade interrompue 
 前奏曲集第1巻第9曲。スペイン情緒たっぷりの曲で、まさに「ピアノによる  ギター演奏」を思わせます。

(2)   花火 Feux d'artifice
 
前奏曲集第2巻第12曲。夜空に閃光する花火の色彩が鮮やかに描かれた曲で、 最後にフランス国歌ラマルセイエーズの断片が遠くから聞こえてきます。

3. 「ピアノのために」 クロード・ドビュッシー
    Pour le Piano Claude Debussy

「月の光」で有名な「ベルガマスク組曲」に続く代表作として知られた曲です。  古典な組曲を思わせるタイトルがつけられた3つの小品から成っています。どこ   か東洋風の独特な響きが聞かれます。 

  (1)   プレリュード  Prelude
  3部形式の華麗な作品。力強い印象的な主題に続いて軽やかな動きが続きます。  この主題はその後も独特な和声を伴って何度も繰り返されます。コーダではテン  ポが遅くなり、そのまま荘重な雰囲気で閉じられます。
  (3)   サラバンド  Sarabande 
  サ
ラバンドは、スペインなどヨーロッパ各国の宮廷で踊られた3拍子の緩やかな  舞曲です。この曲は、ゆったりした流れの中にドビュッシー独特の和声や色彩感  が感じられます。

(4)   トッカータ  Toccata
  素早い動きの活発な曲。細かい流麗な音の流れの中、時折東洋的な雰囲気を感じ させます。最後の曲らしく,大きな盛り上がりを持って華麗に終結します。

4.狂詩曲「スペイン」エマニュエル・シャブリエ (1841-1894)(メサジェ編曲)

   Espana, Rapsodie pour Orchestre   Emmanuel Chabrier

      arranged by Andre Messager

シャブリエは、39歳まで内務省の役人として働き、その後作曲家に転身したという変わった経歴の持ち主。したがって作曲家としての活動は14年と短い人です。
 彼の代表作である狂詩曲「スペイン」は、妻とともに4ヶ月間スペインに滞在した印象をもとにオーケストラ用に作曲した曲です。沸き立つようなリズムと輝かしいオーケストレーションに彩られ、初演時から熱狂的に迎えられました。今回は、アンドレ?メサジェがピアノ連弾用に編曲した版で演奏します。

5.2台のピアノのための3つのアルゼンチンのロマンス 
   カルロス・グァスタヴィーノ

     Tres romances argentinos para dos pianos Carlos Guastavino(1912-2000)

グァスタヴィーノはアルゼンチンの作曲家兼ピアニスト。彼の作品は200曲を超えますが、その殆どがピアノ曲と声楽曲です。この「3つのアルゼンチンのロマンス」は2台のピアノ用の曲ですが、彼自身がオーケストラ用に編曲した版もあります。

現代の作曲家で、こんなにも親しみやすい美しい旋律の曲を書いた人が、しかも地球の裏側の国に居たとは、驚きを禁じえません。もっと演奏されても良い人だと思います。

   (1) サンタフェの少女達
    可憐な前奏に引き続いて、哀愁を帯びた実に美しい旋律が掛け合いで奏されま   す。その後は、 優美な旋律が現れ、さらにイ長調に変わって戯けたような旋律   が現れます。まるで映画音楽の様な、哀愁を帯びた美しい曲です。

  (2)フヘーニョの子ども達
     「フヘーニョ」とは、アルゼンチン北西部のフフイ地方を指します。子供たちの    戯れる姿をちょっとおどけながら描いており、そこに何とも言えない哀愁が漂    います。

  (3)クジョの踊り
    クジョ地方の民族舞踊サマクエッカのリズムが印象的な楽しい曲です(サマク   エッカは、6/8拍子のリズムに乗せて、男女のペアがハンカチを振りながら踊る   舞曲です)。前奏でサマクエッカのリズムが力強く奏されると、活発な旋律が   掛け合いでスリリングに奏されます。中間では穏やかな旋律が現れ、最後はサ   マクエッカのリズムがfffで打ち鳴らされて終わります。

6.カルメンの主題による幻想曲(2台8手)ジョルジュ・ビゼー
  (ウィルバーグ編曲)

   Fantasy on Themes from Bizet's Carmen for 2 pianos 8 hands  

   George Bizet (1838-1875) arranged by Mack Wilberg

夭折の天才ビゼーが作曲したオペラ「カルメン」。スペインのセヴィーリャを舞台に、ジプシーのカルメンと衛兵ドン・ホセとの恋と悲劇を描いたオペラです。華やかな「前奏曲」や勇壮な「闘牛士の歌」等、親しみやすいメロディーが満載です。多くの作曲家がこれらのメロディーに触発されて、様々な楽器編成で編曲を行ってきました。本日は、マック?ウィルバーグ(Mack Wilberg) が2台8手(ピアノ2台にピアニスト4人)用に編曲した版で演奏します。

「第1幕への前奏曲」、「アラゴネーズ(第4幕への前奏曲)」、「ハバネラ」、「ジプシーの踊り」の旋律が、現代曲風の不協和音を伴いながら現れます。
 さて、皆さんご存知の旋律が聴こえてくるでしょうか?

                               (三輪 壮一)

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