曲目解説  (三輪 壮一)

舞曲は、踊りの伴奏のための音楽、あるいはそのリズムや形式を使った純粋な音楽作品のことです。いずれの場合も舞曲は、踊りの特徴を示す
テンポやリズム様式を持っています。踊りの存在が太古の歴史にまで遡れるように,舞曲の歴史も非常に古く、また民族がそれぞれ独自の踊りを持っているので、音楽も実に多様なものとなります。

 本日は、ヨーロッパの様々な国・地域・民族に根ざした舞曲をテーマに曲が選ばれています。それぞれの特徴の違いをお楽しみください。

1.ルーマニア民族舞曲 Sz.56 (バルトーク ハンガリー 18811945

バルトークが、ルーマニア各地の民謡を題材にして1915年に作曲した、6曲からなるピアノ小品の組曲です。オリジナルはピアノ曲ですが、後にバルトーク自身の手により小管弦楽に編曲されました。民族色豊かで親しみやすい旋律により人気が高く、しばしばコンサートで取り上げられます。

第1曲:棒踊り(男性が棒を持って踊る)、第2曲:飾り帯の踊り(少女達が2人ずつ互いに腰をつかみ、円になって踊る)、第3曲:踏み踊り(男女ペアになって一地点で踊る)、第4曲:アルペンホーンの踊り(アルペンホーンというルーマニアの民族楽器〈全長2mの木管楽器〉の伴奏で踊る)、第5曲:ルーマニアのポルカ(ルーマニア独自の、子供達による快活な踊り)、第6曲:速い踊り(大勢のカップルによる求愛の踊り)

2.ドゥムカ Op.59 (チャイコフスキー ロシア 18401893

ドゥムカは、19世紀にスラヴ系の諸国で流行した、物語的な性格を持つ民族色豊かな舞曲です。ゆったりした哀調を帯びた部分と、速い情熱的な部分とが対比した構成となっています。

1886年に作曲されたチャイコフスキーのドゥムカは、チャイコフスキーらしいメランコリーで美しい旋律と、華やかで激しい中間部とが、実に見事なコントラストをなしています。

3.3つのマズルカ Op.59  (ショパン ポーランド 18101849)

ポーランドには、マズルカやポロネーズなどの独特の民族舞曲があります。

マズルカは、ワルシャワ周辺のマズールィ地方の名から取られたもので、農民の間で踊られた3拍子の舞曲の総称です(マズール、クヤヴィアク、オベレクの3種類に分けられます)。マズルカは、アクセントが3拍目か2拍目に置かれる、独特のリズム感が特徴です。

  さて、1845年に作曲された3曲のマズルカは、ショパンの数多いマズルカの中でも傑作に数えられるものです。第36番は洗練された色彩感豊かな曲、第37番は優しさに満ちた美しい旋律の曲、第38番は活発で多彩な表現が見事な曲です。

4.英雄ポロネーズ  Op.53 (ショパン ポーランド 18101849

ポロネーズは、主にポーランドの貴族の間で踊られた舞曲で、男女がペアになって踊る行進曲風の踊りです。3拍子のゆったりとした、特徴的なアクセントを持った舞曲です。

「英雄ポロネーズ」は、ショパンのポロネーズの中で特に人気の高い曲で、1842年〜1843年に作曲されました。「英雄」という名前はショパンが付けたものではありませんが、全編がその名に相応しい高揚感を持っています。

力強い助走部に続く輝かしい主題。そして左手オクターブの連符に乗った落ち着いた中間部は、勇壮な騎士団の進軍を思い起こさせます。

5.古風なメヌエット  (ラヴェル フランス 18751937)

 メヌエットは、ゆったりとしたリズムで優雅に踊られる、ヨーロッパの宮廷舞曲です。4分の3拍子で各小節の1拍目にアクセントが置かれます。

この「古風なメヌエット」は、ラヴェルがパリ音楽院在学中(20)1895年に作曲した、彼の最初期の作品です。タイトルの通り、伝統的なメヌエットに則った三部形式となっています。素朴で温かい旋律でありながら、ラヴェルらしい洗練された味わいをも感じさせる小品です。

6.高雅で感傷的なワルツ (ラヴェル フランス 18751937

 ワルツは3拍子の舞曲で、19世紀にウィーンを中心に流行しました。男女が旋回しながら踊るため、円舞曲とも訳されています。

ラヴェルは、1911年シューベルトの「34の感傷的なワルツ」にならって、この曲を作曲しました。シンプルで明快な作風の中に硬質な和声が盛り込むことで、精妙で複雑な響きを追求しています。まさにラヴェル円熟期の作品です。

7つのワルツと、それらの集大成とも言える回想のエピローグの計8曲から成り立っています。

1曲:中庸の速さで(鋭利な和音が特徴です)、第2曲:十分ゆっくりと、第3曲:中庸の速さで、第4曲:十分快活に、第5曲:ほとんどゆっくりと、第6曲:活発に、第7曲:あまり活発でなく、第8曲:エピローグ 〜 ゆっくりと

7.バガテル Op.34より ワルツ 踊りの歌 マズルカ

(シベリウス フィンランド18651957

 バガテルとは、「ちょっとしたもの」とか「ふとした思い付きで書き留めた曲想」といった意味で、特に定まった形式はありません。

作品3410曲からなるバガテルは、シベリウス初期の小品集です。「ワルツ」はさりげなくも美しい曲、「踊りの歌」は、演奏時間1分に満たない軽やかな曲、「マズルカ」は、ゆったりとした抒情性豊かな曲で、ショパンのマズルカとはかなり趣が異なります。

8.ノルウェー舞曲 Op.35  (グリーグ ノルウェー 18431907) 連弾

 4曲の小曲からなる「ノルウェー舞曲」は1881年にピアノ連弾用に作曲されその後ハンス・ジットによってオーケストラ用に編曲されました。現在ではむしろオーケストラ曲として演奏されることが多くなっています。

 第1曲は軽快な舞曲と牧歌的な中間部からなります。第2曲は素朴で親しみやすい旋律の舞曲と激しい中間部からなります。単独でも良く演奏される人気の高い曲です。第3曲は行進曲風の主題と穏やかで抒情的な中間部からなります。第4曲は快活な主題と哀愁を帯びた中間部、最後は華麗なコーダで締めくくられます。                                                    

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