プログラム・曲目解説 (三輪壮一)   「チラシ」に戻る

バッハ 

 先ずは、バッハの親しみやすい曲を2つお届けしましょう。

「主よ、人の望みの喜びよ」

       バッハの数多い名曲の中でも最も親しまれているのが、この「主よ、人の望みの喜びよ」ではないでしょうか。カンタータ第147番「心と口と行いと生命もて」の第6曲および第10曲として歌われます(第6曲では「イエスを持つことの何という幸せ」、第10曲では「イエスは常に我が喜び、我が心の慰め、心の潤い」と歌われます。)

       安らぎに満ちた旋律が奏でられる中、突然コラールの旋律が現れます。これは、「目覚めよ、我が心」というルター派のコラールによるものです。

原曲は管弦楽を伴う合唱曲ですが、ここではマイラ・ヘスが2台ピアノ用に編曲した版で演奏します。

「羊が安けく草を食む」

     この曲もカンタータからの編曲です。カンタータ第208番(狩猟のカンタータ)の第9曲として歌われるアリアで、「良き牧人が見守るところ、羊たちが安けく草を食む。統治者が優れている地では、安息と平和が訪れる。」といった内容の歌です。

原曲はリコーダーによる愛らしい導入の後、ソプラノによって大らかに歌われます。安らぎに満ちた実に美しい曲ですね。

     ここでは、メアリー・ハウが2台ピアノ用に編曲した版で演奏します。

ドビュッシー 「小組曲」

     次は、ドビュッシーの愛らしい小品をお届けしましょう。

     この「小組曲」は、1888年から翌年にかけて作曲された、ドビュッシーの初期のピアノ連弾曲です。作曲の契機となったのは、敬愛する詩人ヴェルレーヌの詩でした。

ここでは、アンリ・ビュセが2台ピアノ用に編曲した版で演奏されます。

@小舟にて:ヴェルレーヌの詩集「艶なる宴」にある詩と同じタイトルです。波のような分散和音に乗って、たゆたうような旋律が優雅に流れていきます。

A  列:これもヴェルレーヌの詩集「艶なる宴」にある詩と同じタイトルです。貴婦人のロングドレスの裾をかかげて行進する人々や、悪戯好きのペットの猿を描いています。軽快で楽しい雰囲気の曲です。

Bメヌエット:この曲には、ドビュッシーが、パンヴィルの詩を用いて作曲した歌曲「艶なる宴」の旋律が用いられています。ルイ王朝風の典雅な舞曲です。

C バレエ:軽妙で色彩豊かなバレエ曲で、中間部はト長調のワルツになります。

尾高尚忠 2台のピアノのためのカプリッチョ<みだれ>」

        次は、趣向を変えて、日本人の作曲家による曲を演奏します。

     尾高尚忠は、日本の洋楽界に大きな影響を与えた指揮者・作曲家でしたが、惜しくも40歳の若さで早世しました。没後その功績を称えて、「尾高賞」(優れた邦人作曲家によるオーケストラ作品を顕彰するための賞です)が設けられました。

尚忠氏の次男忠明氏は国際的に活躍する指揮者で、最近新国立劇場の第5代芸術監督に就任しました。

     このカプリッチョ<みだれ>は、尾高がウィーン留学中に作曲したもので、親交のあったピアニスト、ディヒラーに結婚祝いとして捧げられました。尾高の夫人節子氏によると、曲の題名<みだれ>は、第一主題郡に含まれる様々なリズムの錯綜から名づけられたとのことです。

     日本風の活発でエネルギッシュな曲と、穏やかで甘美な曲が交錯しながら展開していきます。

プーランク 「『仮面舞踏会』の終曲によるカプリッチョ」

     後半のプログラムの最初は、エスプリに満ちた作風で知られるプーランクの曲を演奏します。

この「カプリッチョ」は、世俗カンタータ「仮面舞踏会」を基に1932年に作曲されました。

プーランクらしい、おどけた様な陽気で楽しい曲ですが、後半はドビュッシーのゴリウォークのケークウォークを思い起こさせるリズムとメロディーとなります。

フランク  プレリュード、フーガと変奏曲 作品18

      次は、敬虔なカトリック教徒だったフランクの曲です。フランクの生涯は、カトリックの深い信仰に満ちた地味でつつましやかなもので、36歳から没するまでパリのサント・クロティル教会のオルガン奏者を勤めました。

原曲は「大オルガンのための6つの小品」の第3曲で、サンサーンスに捧げられました。フランクらしい敬虔な雰囲気を持つ作品ですが、心洗われるような美しい旋律に満ちた曲ですね。

@ プレリュード:3連符を背景に、感傷的で美しい旋律が奏されます。

A フーガ:重々しいカデンツァに続いてフーガに入ります。荘重で美しいフーガです。

B 変奏曲:プレリュードの主題が美しく変奏されていきます。


ラヴェル  マ・メール・ロア

        最後の2曲は、いずれも「詩情と色彩の作曲家」ラヴェルの曲です。

   先ずは、メルヘンチックで詩情豊かな「マ・メール・ロア」から聴きましょう。 

    「マ・メール・ロア」はペローの童話集で、日本では「マザー・グース(がちょうおばさん)」
   の名前で知られていますね。


     この曲は、このペローやボーモン夫人の童話に基づく5つの小品から成り立っています。

     この曲は、元々はピアノ連弾曲用として作曲されましたが、後にラヴェル自身によって、
   管弦楽版や
2台ピアノ版などに編曲されています。

@ 1曲 眠りの森の美女のパヴァーヌ

妖精の呪いを受けて眠りについた王女の寝台の周りで、宮廷に仕える男女達がゆったりと踊ります。

A 2曲 おやゆび小僧(一寸法師)

森に捨てられた一寸法師は、パンくずを道に撒いて道しるべとしましたが、小鳥に食べられてしまい、道に迷ってしまいます(鳥たちのさえずりやカッコウの鳴き声が聞こえますよ)。最後に救われたかのようにハ長調の和音が響きます。

B 3曲 パゴダの女王レドロネット

パゴダは中国製の陶器でできた首振人形のこと。その人形の女王であるレドロネットの入浴中に、人形達が胡桃やアーモンドで作った楽器を奏でて歌い始めます。中国風の5音音階や銅鑼(ゴング)の響きが異国情緒を高めます。

C 4曲 美女と野獣の対話

魔法使いの呪いで野獣に変えられてしまった王子様がお姫様に求婚します。彼女が意を決してそれを受け入れると、呪いが解けて野獣は王子様の姿に戻ります。緩やかなワルツ(美女)と低音の主題(野獣)が対話を重ねるように提示されます。最後に聴かれるグリッサンドは、野獣が王子様へと変身する瞬間を表わしています。

D 5曲 妖精の園

眠りの森の美女が、王子様の口づけによって永い眠りから覚めるシーンを表しています。曲は次第にクレッシェンドしていき、最後は大らかなクライマックスを迎えます。最後の華麗なグリッサンドは、魔法から解放された喜びを表わしています。

  

ラ・ヴァルス

         最後は、色彩感と力強さに溢れた「ラ・ヴァルス」です。

ラ・ヴァルス(ワルツ)は、ロシア・バレエ団のディアギレフの依頼によって1920年頃に作曲されたバレエ曲です。ラヴェルは、1850年代の宮廷を想定し、ウィンナ・ワルツの礼賛としてこの曲を書いたと言われています。

      この曲のスコアには作曲家自身による次のようなコメントが付されています。

「渦巻く雲の切れ間から、ワルツを踊るカップルが垣間見える。雲は少しずつ散ってゆく。旋回する大勢の人達で溢れた巨大なホールが見える。場面は次第に明るくなってくる。シャンデリアの光は力強く燦燦と輝いている。1855年頃の宮廷である」と。

このコメントを読まれると、曲の理解がより深まるのではないでしょうか。

ラヴェルは、当初この曲を管弦楽用に作曲しましたが、その後ピアノ独奏用と2台ピアノ用に編曲しており、いずれも1921年に出版されています。